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裏町挽歌  3 -b

宇佐美が警察に呼ばれた。
「なあ、宇佐美さん、井出さんは 全部自分ひとりでやったと言われてるんだが、どう思うかね?」 
宇佐美は覚悟を決めた、「頭がそう言われるんなら自分が被ろう」 そして、駐在所爆破、川島叡子殺害、そして一連の抗争事件の全容を語ったのである。
安藤は勝った・・・だが勝ったとは思っていなかった。
どれも真実では無い。
例え真実であったとしても誘導尋問では公判は乗り切れない。
何も井出は語ってはいないのだ。
只、確証が得られただけでの事である。
瀬尾が言った、「どれもこれも戦争が齎した悲劇だなー、警官も辛い仕事だ」「隠さなきゃ為らない過去まで全部暴かなければならん」「だから新たな犯罪を生むんだ」と・・・
安藤は思った、「井出俊介、これも凄い男だ」「地獄まで秘密を持って行こうとは」「だが宇佐美も男らしい男だな」「全部の罪を自分一人で被ろうとは・・・中々出来る事では無い」と。

俊介の容態が急変した。
一同が集まる中、誠司に言った、「田沼を頼れ、電話して置いた、もう俺達はジ、エンドだぞ」
「親父ッ、死ぬな、俺を残して何処行くんだ」「もう一度、満州へ戻ろう・・・」慟哭した。
にっこり微笑み静かに息を引き取ったのだった。

「今日、工員さんと田沼さんが鉢合わせしたのよ、何かあの人達知り合いだったみたいね・・・」「可笑しかったわ、どちらも あっ、どうも、ですって」と笑った。
「かも知れねえな・・・」誠司も薄々感ずいていたのだ。
「田沼がまだ此方に居るのか・・・親父の死を知らせなきゃいけないな」そう思った。

「お兄さん、田沼さんって素敵な人ね」「あんな人、恋人ならいいなー」妹、冬子が言う。
「馬鹿を言え、ヤクザに惚れるな!」未だ何も解っていない様だ。
「お前達は堅気のいい人探せ」
そして、来るであろう 破滅の時の事を思い彼は順々に話して聞かせたのであった。
亜起子は、時々涙ぐみ しんみりとした顔で聞いていた。

今日も安藤は、花屋『アイリス』に赴いた。
たった一輪の花を買いに・・・そして世間話から、譲治の近況までを話して帰る。
田沼も時々店に顔を出す、厳つい顔で冗談を言って帰るのだった。

全てを知ってから、妹達は亜起子を助け励ましながら一生懸命働いていたのだった。
「お姉ちゃんの力になろう、お兄さんが帰って来るまで頑張ろう」と・・・
亜起子はよく口ずさんだ、「待てーど暮らーせど来ーぬ人を・・・♪」
しかし、妹達はそんな姉の姿が羨ましくもあった。
これ程愛し合ったらどんなにか幸せだろうか・・・
しかし辛さもよく理解出来ていた。
誠司の言った「堅気の人を探せ」と、言う意味も・・・

ある日、亜起子は田沼に頼んだ。
「私の身体に譲治さんと同じ彫り物をしてください・・・」と・・・
田沼は快く承知して、「余程、譲治に惚れていなさるんで」 「ええ、何時もあの人と一緒に居たいんです」 「幸せだなー、奴は・・・」
程無くして亜起子の背中いっぱいに双龍の刺青が施されたのである。
妹達(奈津子・冬子)も、姉の刺青に、その愛の深さを知るのであった。
だが奈津子は賛成しなかった 又 冬子は「それほど好きだっだら私もするわ」と賛成した。



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