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『幕末異聞』  3

「№ 5」  
こうした中で長州軍と幕府とが激突していた。
薩摩は「今幕府を敵に回すのは得策ではない」と判断して幕府軍側についたのだった。
長州軍は惨敗した。
長州は裏切り者薩摩との同盟関係などあり得ないとの考えで一致したのである。
松蔭門下の高杉晋作はかってない奇策を考え付いた。
農民にも銃を持たせたらどうか、刀では幕府軍とは闘えない。
だが銃であれば誰でも訓練すればすぐ戦力になる。
その名も『奇兵隊』
最初は皆笑ったが「これからの時代は刀ではなく銃だ」との信念で説いて廻る晋作の熱意と奇兵隊の機動力に感心して長州藩独自で幕府を倒す可能性を模索しだした。

相変わらず京の都では殺戮の嵐が吹き荒れていた。
伊蔵も又その渦中にあり 命の保障は何処にも無かったのである。
唯 その中にも安らぐ所があるのが救いだった。
お葉の家に行けば何がしかの情報も得られたし行き場のないエネルギーを爆発させる事も出来た。
家では何時もお夕が待っている。
又 時にはお定が割り込んで来る。
だが少々煩わしくも感じていたのであるが、兎も角もてない男に取っては羨ましい話である。
その意味では非常に果報者で有るにはあったが・・・

近藤は西国大名のところによく行っていた。
幕府の立て直しには離反するものが居ては都合が悪い。
そして新撰組も大幅な改革を余儀なくされていた。
脱走する者も居た、全て処断した。
又 盗み、金銭着服、その罰は死を持って償わせたのである。
新しい組員も雇い入れた。
その教育は土方が主に受け持った。
大所帯になると何かと苦労がつき物の様である。

江戸では・・・すでに勝海舟は幕府の滅亡を予見してた。
どうやってこの戦いを終結させるか・・・
徳川家を存続させる為に密かに西郷、坂本と相談してた節がある。
知らぬは京で暗闘を繰り返している佐幕派、尊皇攘夷派達であったのだ。
近々近藤以下数名が幕臣に取り立てられるとの噂が流れていた。
新撰組の連中は又それで勢い付いているのだった。
功名争いの為に余計 斬らねばならぬ相手でも無い者まで斬る。
町の人々は今までと違う反応を見せ始めていた。
いつの間にか新撰組の羽織は恐怖の的となってしまっていたのだった。

ある夕方 ひょんな事から祇園の芸姑、志穂と知り合った。
桂川の畔で下駄の花緒を切らせて困っているところを助けてやったのである。
手ぬぐいを裂き挿げ替えてやった訳だが話を聞くとお葉のところで三味線を習っている様子だ。
「うちの店では『いちげん』のお客さんは取らないの」「ほう、では格式があるんだ」
二言三言話しただけであったが何か心に残る娘であった。

お葉の家で寛いで居る時 志穂がやってきた。
驚いた顔に喜びの表情が読み取れる。
伊蔵の眼を見て「あの娘は手を出しては駄目よ、後ろに真木さんが着いているのよ」と・・・
「あの真木和泉か・・・?」にやりと笑って伊蔵はうなずいた。
「あいつも好きだなーあんな若い娘にまで手を出すとは」
お葉は「一緒よ、お夕だって似たり寄ったりでしょう」と笑った。

稽古が終わって志穂が帰った後、例によってお葉はしがみ付いてくる。
「今日は返さないからね、ここ暫くは血生臭い事は無し、ゆっくりして行ってね」と・・・
そうして夕方 お葉は仕事に出掛けて行った。
天井の節の目を数えながら真木和泉の事を考えていた。
何時かは剣を交えて見たい相手だ、どんな剣を使うのか・・・と。
しかしその日はついに来る事無く終わった。
商家に強盗に入り新撰組を脱走したのである。
結果は新撰組の手によって天王山で捕らえられ自刃させられたのであった。
粛清の嵐も容赦なく吹き荒れた。



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